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  【連載】マルサの事件簿

数億円の宝石を持ち逃げされた芸能人が話題になっていますが、いったいどのような所得があれば数億円もの宝石を所有できるのか、疑問を呈する声も上がっています。確かに、この芸能人は長者番付には登場してきませんから、収入の実態は謎です。  高価な宝物に目がないのは、男性も同じようです。女性にとっての宝石に相当するのが、男性にとっては車といえるかもしれません。実際に高級外車を何台も所有している人はたくさんいますが、そうした人の収入実態もまた謎であることが多いものです。今回は、そんな車道楽のための資金を脱税で作ろうとして、墓穴を掘ってしまった経営者の話です。高級車に乗るべき紳士ではなかったことを、自ら明かしてしまったといえるでしょう。

  事件簿K車道楽が高じて脱税に走る

■息子の会社が“大化け”
 港不動産の社長、堀田の道楽は車だ。社用車はロールス・ロイスのファントム、メルセデス・ベンツのS65AMGロング、プライベートではフェラーリの599、マセラッティのクアトロポルテ、ポルシェのケイマンS、BMWの760Liなどを所有し、その日の気分に応じて使い分けている。いずれも数百万〜数千万円という高級車ばかりだ。港不動産は、東京の都心部に大規模なオフィスビルを6棟所有し、その賃料収入だけでも年間50億円を超える。堀田の祖父が戦前から始めた事業だが、堀田の父親が戦後に急拡大させ、現在の堀田の仕事は、日々お金を使うこと、といった具合だ。その堀田の息子が、大学時代の友人に誘われて求人情報をインターネットで仲介するベンチャー企業を起こしたのである。といっても、友人の方に事業の才があり、息子は資本金の6割を提供する金主として創業に協力し、取締役に納まっただけだった。堀田は息子から出資を頼まれた時、「どうせ失敗するんだから、損金として利益を圧縮できる会社名義で出資しよう」と考え、2千万円を息子に手渡した。ところが、予想に反してその会社が急成長し、新興市場に上場までしてしまったのである。堀田が軽い気持ちで出した2千万円は、あれよあれよという間に20億円に化けてしまったのだ。そうなると、堀田の車道楽の血が騒ぎ始めた。「あの車が欲しい」という長年の夢が、にわかに現実味を帯びてきたのである。

■きっかけは税額の格差
 「あの車」とは、フェラーリF40コンペティツィオーネ。1990年に、たった10台だけ生産された幻の名車だ。フェラーリ創業40周年を記念して開発されたF40をベースに、レースに参戦するフェラーリマニアのために大幅にリファインしたのがコンペティツィオーネである。 現在の所有者は世界的なセレブに限られ、日本には1台、あるいは2台あるといわれている。いや「ある」というより、「しかない」といった方が適切だろう。ファラーリマニアにとってはまさに垂涎の的なのだが、あぶく銭を手にした堀田は、金の力で何とか手に入れられるかもしれないと考えたのだ。「10億円までなら出してもいいが、まぁ5億円程度で大丈夫だろう。とりあえず3億円ほど用意するか」 庶民とはかけ離れた金銭感覚だが、「まともに法人税を払ったら、手取りは半分。こんなことなら、個人で出資するんだった。そうすれば10%で済んだのに」と、税金を惜しむ気持ちが急に頭をもたげてきた。 株式売却益で3億円を手にするには、法人で株を売れば法人税(最高税率46.36%)の対象になり約6億円を処分しなければならない。ところが個人で売れば申告分離課税(税率10%)になり、3億3千万円強の売却で済む。その差は、確かに大きい。これまで金で苦労したことのない堀田だったが、「コンペティツィオーネが手に入るかもしれない」と思った途端、1円でも惜しくなってきたのである。「損金を作って、脱税するか」 堀田が、そう決断するのに時間はかからなかった。

■親の因果が子に報い
 不動産会社が計上する巨額の損金など、売買損以外に考えられない。堀田は、まず妻の名義で赤坂興業という不動産と中古車を売買する会社を作った。そこに港不動産が保証人となって金融機関から6億円の融資を引き出し、土地を購入させたのである。その土地をわざと不採算の貸し駐車場にして、債務もろとも3億円で港不動産が買い、代金を例の株で清算したのだ。赤坂興業は3億円の売買損と3億円の株売却益が釣り合うため、計算上法人税は発生しない。港不動産にしても、不採算事業を債務と一緒に引き受けたという名目で、安値売買の言い訳が立つ。株式の“5%ルール”に抵触しないよう、不動産の売買は1億円程度に分割して行うという念の入れようだった。この、堀田にしてみれば「完璧な脱税」を見破ったのは、マルサの青木だった。都心部の地価回復を背景に、地上げに群がるアングラマネーの動きに青木は目を光らせていたのだ。不正資金は大半が休眠会社か設立間もないペーパーカンパニーを舞台に動くため、そうした会社が唐突に数億円の不動産取引をすれば、まず怪しい。そんな青木のアンテナに赤坂興業が引っかかったのである。青木は内偵の結果、赤坂興業に営業の実態がないこと、そして港不動産のダミー会社であることを突き止め、赤坂興業の本社、つまり堀田の邸宅を訪れたのである。最初は正当な取り引きを主張していた堀田だったが、「赤坂興業の社長に話を聞きたい」と追及されると、万事窮した。妻に細かい仕事の内容が分かるはずもなく、すべては堀田が書いたシナリオだったことは明らかだからだ。 哀れだったのは、脱税のために株を使われた息子の会社だった。「反社会的な企業が所有する企業だ」という風評被害を受け、ストップ安が続くほどの売りを浴び、堀田の息子は引責辞任に追い込まれたのである。

                                 出典『企業内マルサの事件簿』より

          

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